折り返しっぽい日記を書いたタイミングでリセットとは。
どうなる単位。
どうする僕。
21.
「それじゃ小野寺さん、教授を宜しく」
普段ならそのまま同行する二人を今回は見送り、すぐに一人宿に戻った。何時遺跡外に出てきても良いようにと押さえておいた宿は学校からのエアメールで溢れている。一晩では到底処理しきれない。
「データ類はデジタルで送ってくれとあれほど……」
ぶつぶつと呟きながら必要なものとそうでないものを仕分け、特に重要なものをピックアップしてゆく。定期行事のお知らせはゴミ箱へ、学費徴収の用紙は特待生なので軽く目を通して矢張りゴミ箱へ、レポート受理の葉書は破り請求していた書類は鞄に投げ込み。
漸く本格的にデータ整理に入れたのは日が傾いてからだ。
これまでに捕らえた被験体の一覧を端末に表示する。
黒猫*2
野犬*2
巨大蟻*1
大鳩*1
山猫*1
巨大ハムスター*1
狼*4
毒蛾*3
大烏*4
ワラピー*1
ジャイアントタラバ*1
エンシェントレスト*1
「……軒並み『大きい』事が強調されているなぁ……」
このうち猫三匹は野に放ち、ジャイアントタラバは昨晩小野寺に調理されて教授に美味しく戴かれてしまったので、ケージに残っているのはピアスとドォルの依代を除くと十八匹。ついでに教授にさり気なく渡された二匹目のワラピーもいるので正確には十九匹だ。しかしどれも催眠状態で深い眠りについたままなので、例えば檻の前に立ってみても異様な程静かだ。剥製が並んでいるようにも見えるだろう。
「とはいえ流石にそろそろ場所もないし……選別しなければね」
「間引きかぁ?」
同じ姿をしてると気が乗らねぇもんだな、とドォルは狼のケージの前で呟いた。
「何物騒な事を言ってるんだ。元いた場所に戻すんだよ」
「……お前に物騒といわれると全力で異を唱えたくなるのは何故だ」
「先入観?」
「そうか」
「巨大蟻、大鳩、ハムスターは逃がしてしまおう……母数の少ない生物での実験は上手くいかないからね。野犬も片方は大分成長してしまったから」
言いながら名前を画面から消し去る。と同時にケージから動物の姿も消える。先輩のような腕前となるとまた話は別だが、通常の物質転送程度、魔法学校の生徒ならば誰でも出来る芸当だ。
転送完了
転送完了
転送完了
「便利だよなぁ、魔法」
「君が言うのも如何なものかと思うが」
「遺跡の中じゃロクに使えないから最近は寧ろ虚しいんだが」
「最近は使える者もぽつぽつ現れているとかいう話だけど……?」
「どっちにしろ俺らには無理なんじゃん」
「……」
少しの間の後、ドォルと僕の溜息が重なった。
「で、こいつはどうする?」
彼はエンシェントレストを指差した。深催眠に落とした途端に化石になってしまった為、結局詳細なデータはさっぱり集まっていない。
「そっちはこれからまた捕獲するチャンスがあるかもしれないから保留」
「了解。それじゃこんなとこで終わりか」
「後は今回分のデータ整理と……世界律の適応調査かぁ」
「頑張れ洗脳科」
「うん……」
それより先に調べたい事はまだ山積みなのだが、単位の為には多少物事が前後するのは我慢しなければならない。
先ほど鞄に投げ込んだ書籍――『世界犯罪者目録(19)』にちらりと目を遣り、僕は軽く首を竦めた。
***
振袖を翼に滑空する月無夜に溶けぬ白い鴉が一匹。
夜桜の白い闇に隠れている。
「射干玉」
鴉は小さく口を開く。
「そんなものを集めて、どうする気だ」
向かいの枝から黒い鴉が飛び立った。蒼白く光る人魂を幾つも纏い、白い鴉を嘲笑うようにけたたましい啼き声を上げる。
「――何より、喋れる癖に喋らないのが気に食わない」