保管補完。
忙しい、というよりもこう、だらけているようです。
一応忙しくもあるらしい。四月に入ってムラが激しくなったのだとか。
それにしたって何でまた数字を間違えるのか……
22.
ALEXANDER PEARCE
1790年アイルランド生。
29歳で窃盗の罪に問われヴァン・ディーメンズ・ランドに7年の流刑に処される。
1822年9月20日、流刑地から7人の仲間と共に脱獄。
その後、食糧不足から仲間同士での食い合いに発展、
人肉食提案者であったグリーンヒルを制しピアス一人が生き残り
再び流刑地へと戻される。
1823年11月16日、トマス・コックスを連れ二度目の脱獄行為に及ぶ。
19日、トマスを殺害し食す。
1824年、絞首刑となる。
***
死神と契約すると――
その者の最も強く望む願いがたとえどのようなものであっても叶う。
契約すると死神憑きとなり、その場で命をとられる事はないが
代償として二番目の願いは望みの正反対の結果となる。
死神憑きは――
肉体的な感度が下がり、
精神的な感度が上がる。
あらゆる痛みに鈍くなる為力は強くなるが
死神が感じると死神憑きが想像してしまった心理的な痛みは倍以上に感じる。
死神憑きが死ぬと――
怨霊としてこの世界に留まる。
自我は何れ崩壊する。
死神に存在を忘却されると、死んでも死に切れない。
死神には――
感情はない。
反復して思い出されないデータは消滅する。
***
「俺はもう一度まともなメシを食いたいと思った」
多分、とピアスは小難しい顔をして言った。
「そうしたら死神が面白がって言ったんだ。そんなに食事は重要なのか、とか。何ならその望みを叶えてあげようかとか、何かそんな感じのこと」
それで俺は己のエサ持ってもう一度脱獄するのに成功したんだな、まぁ多分、と彼は書物から顔をあげて――というか出して、おどけてみせる。
「どうせ俺の望むようなことははなから無理なことばっかりで、だから死神と契約するのは別に大したことじゃなかった。他の死神憑きも揃ってろくでなししかいねー」
「でもピアス、僕は君の事は覚えていないよ」
「ヌバタマが覚えてるんだよ、つーか忘れさせないようにくっついてんだよ。死神から切り離された時はやべーと思った! でも他の奴が『そんなの学生やってる間だけなんだから待てば良い』って言うからさ。そいつらもう、壊れたけど」
ピアスは大きな鴉の周りをぐるぐる飛び回る。
「そんで俺もそろそろ俺を忘れそうなんだけど、そうしたら俺はどうなんの?」
「そう、なるんだろう」
僕は彼と共にいる、最早何がなんだか判らない塊を指差した。
「こう、なるのか」
それはー、い、や、だー、と奇妙な声を上げて暴れるピアスを尻目に本を放り投げ、ベッドに突っ伏す。
――ピアスのように、僕にはない記憶が射干玉に移されているのだろうか?
あの器に移したのは目の力の半分だけ、だった筈なのだが。
そもそも僕から見れば知らない事なので思い出しようもない。
――僕の記憶は目に蓄積しているんだろうか。
だからどう、という事もないが。
背後でピアスが一人勝手に、矢鱈と困惑している。