推敲する時間がなかった。次の締め切りは日曜……えぇ?!
辻褄合わせしてる余裕あるのか。
前回に引き続きFI以外のキャラが何の注釈もなく出てきて混沌としてますねー。
浅生は深淵テストプレイ時のキャラ。
(知ってる人向けに言うと双子のうち黒髪の方(京狐)です。ピンク頭(京介)は錬金科教師)
御崎がクニーのギルドに勝手に入れるように仕組めたのは
この二人がFCで同じPTだから、だと思います。詳しい経緯は僕は知りません。
2.
洗脳科担当指導教官、つまり僕の直接の師であり学園の教員である浅生は何をするにも後手後手になることで有名な駄目人間だ。否、なる、のではなくする、か。マイペースすぎて期限を守れないという意味での『駄目』ではなく、守って貰えずに焦る相手の様子を見て楽しむのが好きなだけという性根の腐った『駄目』人間なのだから。勿論それが教え子であろうと目上であろうとお構いなし、『性悪の洗脳科』で教鞭を振るうに相応しいと言えばそうなのだが担当される側は堪ったものではない。
今回も例に漏れず、僕は到着二日目にして漸くこの遺跡でこなさねばならない課題の内容を知らされる事となった。
鞄の中に入れた覚えのない封筒が一つ。中にはパーティーがどうの宝玉がどうのと書かれた招待状らしきものとメモ用紙が一枚。
『という訳で取り敢えず宝玉を探してきてね』
何が、という訳で、だ。僕はメモ用紙を千切り捨てる。紙片は床に落ちる寸前で蝙蝠へと姿を変え、窓の外へと飛び立っていった。アレはこれからメッセージを無事伝え終えた事、そしてついでに破られた事を術主である浅生に伝えに行くのだ。
「全くこんなもの、先に渡してくれれば良いものを……」
だがこれで遺跡の盛況振りの説明がつく。成程、ここに集まる者たちの恐らく殆どは招待を受けてやってきていたのだ。遺跡発掘マニアが大挙して押し寄せてきているのではないと判ると少しほっとした。パーティーの裏で糸牽く送り主から悪意めいたものを感じないでもないが、その意図は今邪推しても仕方がないし意味もない。僕はただ与えられた課題をこなす事を考えれば良い。
荷物を片手に昨晩描いた魔法陣のうち片方を眺める――と、僕は既にそのマークの上にいた。床は魔法陣から少し離れた辺りから草や砂に覆われ、その向こうに霞みかかった岩山が見える。遺跡の中に山。異様な光景だ。
その有り得ない光景の中に更に大量の人、人、人。あちこちから話し声だの叫び声だのが響き渡り、まるで街中にいるような賑わいを見せている。壁に向かってぼそぼそ呟いている奴、両手を合わせて念仏を唱えている奴、手当たり次第に挨拶をしてまわる奴、色々いるようだ。
ふいに背後から振袖の裾を引かれて振り向いた。目付きの悪い少年にも青年にも見える金髪頭が目の前にある。
「……何か?」
「は、は……羽織が良く似合っているな」
男はそれだけ言うときまり悪そうに他所に視線を遣った。
「……?」
羽織を知っている癖に振袖は知らないのか? 或いは背後から見て白打掛の女と勘違いして咄嗟に誤魔化したか。だとしたらお生憎様だ。
肩を竦めて立ち去ろうとしたその時、向日葵色の髪をした小娘が跳ねるように挙動不審男の元に駆け寄ってきた。この怪しい男が危険人物だったら見過ごすのも拙い――と一瞬身構えたが、訛りのある標準語で話し掛けるさまを見るとどうやらこの二人、元からの知り合いのようだ。聞き取れる会話から金髪男がクニー、向日葵娘がロジュと判る。すぐ後からやってきた長身の男はロジュの父兄か何かだろうか。
――再会の邪魔をするのも無粋だね。
無愛想なクニーと、そんな事はお構いなしに弾けんばかりの笑顔を作るロジュ、見守る男。こんな場所では仲間がいると何かと心強いのかもしれない。僕には無縁の話だが。
寮に居る時ですら死神死神と怯えられてばかりで誰も目を合わせようとはしないし、付き合いの長い洗脳科の生徒たちとも距離を置いている。まともに話の出来るのは生徒会の面々と、担当教官の浅生と、それに――不本意ながらあの破天荒な先輩くらいのものだ。対人関係を築くのが苦手な僕が新天地で知り合いをつくれる方がおかしいのであって。
ばさ、と裾を翻す。丁度西から良い風が吹いてくる。先ずはあちらの方向へ進んでみようか。
と、再び振袖の裾を掴まれた。今度は何事かと溜息をついて向き直ると、向日葵娘が先程までの笑顔は何処へやら、警戒心たっぷりにこちらを見据えている。
「お前仲間って聞いたぞ。でもなんだか殺気感じる……近づいても大丈夫か?」
近付くも何も、もうとっくに射程距離内ですがね。というか僕はそんなに殺気放ってますか。君の後ろの人の方が目が怖いよ。というか、そろそろ先に進ませてくれ。
「……って、仲間?」
誰が? 何でいきなりそうなる?
「まさか浅生の奴……!」
僕は慌てて鞄を引っくり返した。大荷物は宿に残し、必要なものだけを揃えた皮製のミニトランクから落ちてくるのはメモ帳、招待状、筆記用具、食料に――20cm程の球体関節人形型携帯通信機?
通信機の上部、というか頭部、額の辺りにちかちかと赤く光る文字が浮かぶ。
『伝言メッセージ:一件』
「浅生じゃない、か」
読める。この展開は読める。人形遣いなんてあいつくらいのものだ。胴部分の再生ボタンを押して通信機に耳を当てると予想通りの聞き慣れた声が流れ出す。
『竜胆元気ィ? 驚いた? 俺様は相も変わらず恐竜探しの真っ最中ゥー! お前みたいな根暗、どうせ自力じゃ友達の一人も作れないだろうから俺が根回ししといてやったぜ。言いそびれたが先達としてのアドバイスは周囲を利用し倒せ。それだけだ! んじゃ上手くやれよ』
ツー、ツー、ツー、……
――浅生といい御崎といい……何故人の鞄に勝手にものを入れるんだこのクソ野郎。
「その、仲間ってのは何をするものなんです」
知らね、とクニーがそっけなく言い捨てた。ロジュたちにも具体的にどうというビジョンはないようで、はてと首を傾げている。特別な根拠はなく、ただ仲間という認識だけがある状態らしい。共に行動をする、という事でもないようだ。
結局、僕は彼らとは少し距離を置いて先へ進む事にした。一応袖触れ合うも何かの縁と何かあった時に落ち合う事が出来るよう連絡手段だけ取り決めて、解散。
僕は再び一人きり、風の吹く方向へと進む。
***
「ところで御崎」
『おぉ竜胆。挨拶抜きで何の用だよ。あ、お礼?』
「バーカ」
人気が若干途絶えた場所まで来て人心地ついた僕が、人形型通信機を手に取り、彼が通話口に出るまでコールし続けること十数分。やっと御崎の少しやさぐれた声が返ってきたところでさっさと本題に突入する。
「あのね。何だいコレは」
『前に錬金科の課題で作った携帯電話。凄いだろ』
「……否、便利ではあるんだけどね。他にデザインの仕様はなかったのか?」
『デッサン人形なんだから別に良いじゃん。それとも本格的な方が良かった?』
「そもそも人形型にするな!」
『良いじゃん別に。つーか、俺のだし』
「勝手に荷物に入れたのもお前じゃないか」
『入れたのは先輩』
う、と暫し言葉に詰まる。御崎虐めに掛かり切りかと思いきや――こちらにまで魔の手を伸ばしてきつつあるのか。このところ御崎の顔色が前より良くなっていたのには気付いていたが、そういう訳か。
「……先輩じゃ、仕方ないな……」
『だろ?』
御崎はけらけらと笑う。
『それだけ? 一応俺もこれから実技なんだけど――』
「いやもう一つ。何と言ったら良いのかな……」
『何だよ』
「誰かにつけられてる」
『は? ストーカー? どんな奴かは判ってるのか?』
「あぁ……というか、今もなけなしの草陰からこっち見てるんだけど」
砂地に生えた貧弱な草の向こうに人影二つ、奇怪な物陰一つ。一人は眼鏡に白衣の初老の男、もう一人はベレー帽を被った少女。そして足の生えた――草。魔法陣を出てからここまで来る間、つかず離れずこの集団が背後をついて歩いてくるのだ。振り向くと隠れる、が、背を向けていると堂々とついてくる。クニーに輪をかけて怪しい。
「それとさぁ御崎。蠍って確か毒があるんだよね?」
『蠍ィ?』
「うん。これはすぐ目の前にいて、何かもう敵意剥き出し。でかいし」
『あああほおおっ! それは敵! 問答無用だ殺せ!』
「そうなのか」
『浅生先生本当に何にも言ってないのか? 学科問わず、課外実技は殺らなきゃ殺られる場所に飛ばされるんだぞ。生徒の墓場だ。俺とのんびり喋ってる場合か、この莫迦!』
プツリと通信が途絶えた。話し終わるのを待っていてやったぞと言わんばかりに蠍が尾をこちらに向ける。
「といわれても、洗脳科は戦闘訓練なんて受けてな……」
まさか洗脳術で戦えと?
「……またまたご冗談を……」
気は乗らないが相手がその気とあってはどうしようもない。未だ使いこなせない鎖鞭を右手に巻き付け、僕は一歩下がって蠍を見下すように背筋を伸ばした。