装備→gdgd加速LV2
話が一向に進んでいないのは気の所為気の所為
前に書いたような気がしますが
鳴瀬先輩の棺桶や僕の鞄は四次元仕様で、内部は見た目より広く出来てます。
ピアスについてはぐぐる先生にきいてみるとわかるかもしれない。
15.
嬉しかった。
死神に真っ当に気をかけてくれる者は久しくなかったから。
ただ僕はそれを伝える方法を知らないので――酷く困惑している。
青いクロッカスを唇の寄せた。心配しないで、僕は大丈夫。
呟きながら、薄い薄い毒水の膜で花を包む。枯れないように、消えないように。
僕の力の尽きるまで、永遠に等しい時間の中で忘れてしまわないように。
ちらりと微かにカフスが光り、揺れた。
「お前、最近調子悪そうじゃね?」
「……そんな事はない」
「ったく調子こいてヘルシングごっこなんかするから」
「……いやそれはどう考えても全く関係ない……」
わあってるよ、とドォルは欠伸を噛み殺して言う。
「まぁ色々重なったしなぁ。ジャファルの件といい、悪霊憑きといい。あ、あと菓子攻撃も中々凄まじかったなお前の場合は」
僕は苦笑いをして肩を竦めた。
「取り敢えず……暫くは呪詛祓いで手が不自由だ」
「まだ凍みるのかソレ」
「一時に較べれば大分楽になったよ。嫌がらせの出血も止まったしね」
「……厄介だなぁ。呪詛も、お前自身も」
仕方ない。そういう風に出来ている。
***
「新しい構造設計図がこっちでー、メインの装置は持ってきたからー」
先輩は誰に向けて言うでもなく棺桶の中から仕事道具を引き摺り出し、僕の鞄の前に並べていった。そろそろ野営では凌ぎ切れなくなったので、御崎と先輩に鞄の増築を依頼しておいたのだ。
先輩の家である棺桶は、元々それ自体がかなりの大型である事もあって、中に収められた部屋もまた広々とし、本人の手腕に拠り豪華にもなっている。が、僕の鞄は小型の皮トランクなので、これまでは若干大きいクローゼット程度しか捩じ込む事が出来なかった。
だが御崎の開発する四次元システムもこの鞄を作った頃からもう随分バージョンアップを重ね、今では当時の十倍以上の空間を生み出せるという。進化が早いのはシステムの母体が軍事用だからかもしれない。
まだバグは残っているけど普通に使えば大丈夫――との話を御崎から聞いたのが数日前、夜露は兎も角、霜が肌に刺さるように痛む朝焼けの綺麗な日の事だ。
「幾らくらい掛かるっけ……」
『次元増加システムの方は基本的にはプログラム入れ替えりゃ良いんだけど、お前の鞄は結構古いからなぁ。メモリの増強が必要なのと、質量上がるから反重力装置の増強もしなきゃならんし。殆ど総入れ替え、となると実費だけでそこそこ』
「そっか、了解……そっちの口座には結構蓄えあった筈だし、まぁ背に腹は変えられないし。頼んでも良いかな?」
『即決かよ』
「こっちの環境が思った以上に劣悪でね。劣悪、というか不便というか」
『他の奴もそうなんじゃないの? ま、良いけどさ。ただ俺、まだ暫くそっちには行けないぜ? それにシステムは俺が作ってるけど』
「……デザインは先輩任せ、か」
『作業すんのも鳴瀬な』
あの時は状況が状況でもあったので深く考えずに頼むと言ってしまったが、実際工具を振り回して遊んでいる先輩を見ていると不安にならない訳がない。手腕は認める、が――
「それじゃあ鞄をやっつけるのですよっ」
トランクが原型を留めてくれている事を願いつつ、僕はぎこちない笑みを浮かべて宜しくお願いします、と言った。
最低限必要なもの、として依頼したのはベッドとシャワールーム、鏡台兼用の勉強机とクローゼット、それから実験用動物の為の檻。そしてそれが収まる程度の広さの空間。
工事には半日程掛かるというが、どうなる事やら。
「ねーねー、可愛くして良い?」
「出来れば実用的な方向でお願いします」
「白と金と青い薔薇の彫刻で全体がロココ風とかー」
「コンクリート打ち付けくらい何もない勢いで良いんですけど」
「むー……」
それはつまんないな、と、先輩はふんわりとした服で棺桶に腰掛ける。
数分後。彼は「うにゃあん」と意味不明且つ非常に不吉な鳴き声を上げ、背筋の凍るような愛らしい笑顔を僕に向けた。
「カタコンベにする」
「……いやいやいやいやいやそれはちょっと」
***
以下、実験記録ノートの片隅に書かれた日記からの抜粋。
走り書きだがバランスの良い文字が並ぶ。
***
2月19日
浴場跡が閉鎖された。
元が遺跡であるから、元のあるべき姿に戻ったのだろう。
流星を見た。臭素カリを思い出した。
2月20日
悪霊憑きのハムスターとのコンタクトをとる。
生前の名前は『ピアス』らしい。
アレクサンダー・ピアス?
2月21日
ピアスの生前調査を行う。最早洗脳術と全く関係ない。
予想通り、カニバリストのピアスだったが
もう殆ど個人の記憶は残っていない。
代わりに雑霊を何人か引きつけてしまっているようだ。
九頭龍はピアスを手懐けて何をする気なのか気になる。
2月22日
黒猫と山猫が遊びに来てくれた。
先輩の事がなければ猫も大好きなんだけど。
ちゃんと会ってお礼を言えて良かった。
根付をつけていてくれて嬉しかったから(でも何につけてたんだ?)
僕もカフスを嵌めておく事にした。
灯夜稿花紅彩画と対になるもう一つの根付もあるんだけど
また川の底を漁らないと。
***
それ以降の日記は途切れている。