時間が無いので中の人が逃げました。
逃げた方が読みやすい日記になった事に泣きました。
と、いうわけで偶然擦違いで遺跡の外に出たのでジャファル見舞い前編。
あと吸血鬼になりそびれた気がする編。
13.
2月6日 天気:夜
牙蜥蜴と巨大ハムスターで4度の洗脳実験。
無抵抗状態への誘導成功回数は牙蜥蜴1回、巨大ハムスター3回。
巨大ハムスターを用いて意識支配実験、通称『隷属化』成功。
巨大ハムスターを用いて行動支配実験、通称『繰人形化』成功。
尤も適応力のあるハムスターを捕獲、催眠状態でキープ。
デュィルさんと絵本の話をした気がするけどあんまり覚えてない。
あの場所で話す事は何時も余り覚えていられない。
***
2月7日 天気:夜
ドォルをつれて散歩に出る。
固形物が辛いのでミキサーを作成する。面倒だから買った事にしておく。
これで大概のものは粉状にして水で飲めるようになるだろう。
昨日の実験経過をレポートに纏めて送信。
教授は少し疲れているようで、ルッコラ抱き枕で休息していた。
僕も大分疲弊している。ドォルは多分僕以上に。
寿命が尽きる生物に憧れた。
あの二人が一瞬で無に帰すならば、きっと幸せになれるだろう。
***
2月8日 天気:夜
冥さんの笑顔が怖い。
多分あの人のスタンドはザ・ワールド。
良い人なんだけどなぁ、あの笑顔は反則だと思う。
心臓に悪い。
動く。
デュィルさんに日本の漫画『トライガン』のミリィの服を渡された。着てみろって。
本人がノリノリだから色んな意味で逃げ場がなく、
仕方ないのでスタンガン・ミリィ。
***
2月9日 天気:夜
ジャファルが死んだらしい、との報をギルメン伝いで聞く。
らしい、というのは要するに『死んでいるかどうか判断出来ない』って意味だろう。
今は遺跡外の宿屋にいるようだ。
僕ならば彼がどんな状態であるかの判断はつくだろうが――
Mors certa, hora incerta.
***
2月10日 天気:夜
少し前に知り合った風夜という吸血鬼に噛まれてみる。
前々からどうなるのか興味があったので、まぁ遊びのようなものだ。
一応グールになる心配もないし。
どうも傷口が塞がらない(まるで聖痕のように時折血が流れるのだ)ようだが
対人以外の特殊な傷である事を考えればそれ程不思議ではないし
特に何か変化が起きたという様子がないのもその為かもしれない。
一番興味があるのは死神の血を得た吸血鬼がどうなるのか、その点だ。
彼にとって、恐らく血とは記憶装置のようなもの。
僕の血にこれまでの情報が刻み込まれているというならば
その量は並大抵の人間のそれとは桁が違う。
……いや、大半は感情を伴わないただの『データ』だからそうでもないのか。
死神の与血は契約の証。
吸血鬼の吸血もまた契約の証。
死神の『鏡の目』は命を奪うが、吸血鬼は鏡に映らない。
全ての死神が『鏡の目』持ちではない、とはいえ
少なくとも風夜と僕は完全に対立する存在。
さぁ、最後に勝つのはどっち?
風夜は吸血鬼の中でも上位の者らしいけれど
正直そうは見えないような……人は見掛けによらないとは良く言ったものだ。
次の大乱戦ではギルドを離れてこの吸血鬼と、デュィルの三人で組む。
実力の程はそこで拝見させて戴こう、という事で。
にしても不吉な組み合わせだなぁ。
***
「お前、日記なんてつけてたの?」
「大分前から。少しずつだけだけどね」
「……あのさ。他人の日記読むような趣味はないつもりなんだけどさぁ……天気『夜』って何だよ」
「いや……何となく」
「意味ねぇな」
ドォルは籠の中に押し込めたハムスターを見ながら気のない声で言った。
「こいつにも俺みたいに誰か入れんの?」
「どうしようかな」
日記帳に『2月11日(栗鼠暦14日)』とだけ書き込んで、閉じる。久々に戻った宿で着流し一枚、傍らに改造した携帯電話を置いたまま深呼吸。御崎からの連絡はまだない。封魂を解く術が判るまではそう迂闊な事をする訳にもいかないだろう。
「それと今日は何か用事があるって言ってなかったか?」
「ん……そっちは連絡を待――」
ギギ、と窓の外から微かだが異様な音が響いた。ドォルの耳がピクリと動く。
「っている所だったんだけど、来たようだね」
窓を開けると『ギ妖精』が部屋へと飛び込んできた。偽妖精でなくメカ妖精、とロクローの言い張る確かにメカニカルなデザインの妖精モドキだ。
ギ妖精は僕の前で空中静止すると、かぱ、とあけた口から少々耳障りな音を立てつつ小さな紙片を吐き出した。僕がそれを受け取るなり、彼(或いは彼女かもしれない)は颯爽と部屋を飛び去る。
「……何だ今の」
「伝書鳩、あぁ、伝書メカ妖精?」
「何だそりゃ。中身は?」
「ロクローさんたちが泊まっていた――泊まっている宿の住所。それじゃこれから少し出掛けるけど、ドォルは此処で休んでいてね」
「言われなくても俺は行かねぇよ、だってもう疲れてへとへとなんだぜ?」
少し笑って大きく息をつくドォルに、僕は僅かに眉を寄せた。
だが、まだ彼は大丈夫。それよりも今は。
着流しを整えてインバネスを羽織る。全身が黒に覆われる。
「ああそうか。アイツ、死んだんだって?」
「……それが事実かどうかをこの『目』で見に行く」
「でもさぁ。心臓止まってるのに死んでないってどういう事よ。いや勿論死ねっつー訳じゃないけどさ、あれでも一応人間なんだろ? 医者は一体何を見たんだ」
「この世界じゃ人間の法則から外れる者も案外多いものなんだよ。君もあの学校で肌身に感じているだろう、例えば元人間元ゾンビ現吸血鬼のコールドプレイ先生とかさ。だけど――生死の境界が曖昧のままでは混沌を呼び寄せてしまうのでね」
ドォルが一瞬口を噤む。
「――もし『死んでいる』場合――その時はきちんと死に切らす事が出来るのか、お前」
「仕事に私情は挟まない、というか挟んだ時点で僕の存在意義は消える。挟まないように出来ているからその時はどうあっても彼の世へ連れて行くよ」
「どうかな」
ふん、と彼は鼻を鳴らした。
「なぁ、死装束は白いのに何で死神装束は揃いも揃って黒いんだ?」
「さあ? 世の中には黒くない死神もいると思うけど」
仕事の時間になるかもしれない。ならないかもしれない。
ロジュの明らかに覇気のない顔を思い出し、そうならない事を願いつつ千両下駄を突っ掛け、僕はジャファルの元へと赴いた。