取り敢えず生徒会の話に強引に戻したけど
九頭龍やナクアについて全く触れていないというこの酷さ。
ペット枠二つまでにしようと思っているので呼べるのは片方だけという。
……封魂と放魂の両術身につけたら正直やりたい放題ですy
11.
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルル
『うっせえぇぇえ! 今何時だと思ってるんだこのバカ死神!』
「やあ久し振り御崎。ちょっと聞きたい事があって」
『あのな。時差を考えてくれよ、こっちはまだ夜明け前なんだぞ』
「ここもまだ夜明け前」
『……』
電話越しに深く溜息をつくと、それで何、と御崎は不機嫌な声で言った。
「ドォルが傍にいるからちょっと聞き辛いんだけど……封魂術ってどうやって解くの?」
『……はぁ?』
「あれ、ドォルから聞いてない? もう大分前の話なんだけど――」
懐いてきた犬がシベリアンハスキーだった事、それだけでは寂しいのでドォルの半魂を犬に封じた事、そしてそれ以来共に実技をこなしている事。こうしたこれまでの経緯を余り長くならないよう、適当に端折って伝える。そして、
「だけどふと、別の動物に入れ替えようとして気が付いたんだよね……封じる事は出来るけど開放する方法を知らなかったなぁ、と」
『この、ば、ば……バカ死神ィッ!』
「うわ二度目」
『三度でも四度でも言うわこのバカ! 黙って聞いてるだけで頭痛くなってきたぞ……あぁ、大丈夫なのかドォルは……封魂術は死人に用いる術だ、バカ!』
「……え、うそ」
『あのなぁ考えても見ろよ、何で俺たちネクロマンサーが生きてるヤツの魂なんか封じる必要があるんだよ……』
成程、と僕は手を打った。
「確かに言われてみればそうだ」
『遅ぇ』
電話の向こうで再び深い深い溜息。そして気まずい空気が流れる。
――そうか、そういえばネクロマンサー独自の術だもんなぁ。
という事はドォルは犬が死ぬまでのあと数年間、もうあのままでいるしかないのだろうか。流石にとんでもない事を仕出かした気がする。これではドォルは無事卒業出来ない――ではなく、今後数年犬と人間を同時に動かさなければいけない破目になる。
幾ら人間にしては並外れた精神力を持つ彼にも限界はある。
僕自身が彼の寿命を削るのは、信条に反する、が。
かといって犬を殺しても矢張り僕の信条に反する。
「……ごめん、あの時は少してんぱってて……先に相談すべきだった。どうしよ……」
『え何、涙声とかやめ、俺が虐めたみたいじゃ』
「残命時間が変わらなかったから、てっきり大丈夫だって、ああ」
今もまた疲れて熟睡しているシベリアンハスキーを見た。御崎も課外実技の最中だから会う機会が殆どなかった、のかもしれない。しかし御崎や先輩とはコンタクトを取っていたらしい言動も幾度かあった。
わざと黙っていたのだろうか。あの二人にすら気付かれない程完璧に、もう半分の魂だけで自分の身体を動かしていたのだろうか。
『もしもしィ? 喋らないと間が持たないだろ、おい』
「……いや、何を言って良いか解らなくて」
すると意外にも。御崎は電話口でくく、と笑った。
『やっぱバカだなRIP、ネクロマンサー全員が死人しか扱わない良心なんぞ持ち合わせてるとでも思ってんのか』
「え……えぇー?!」
『そりゃ勿論表向きはやらない事になってるんだけどな、確か別のバカがその手法で手下を繋ぎとめていたとかいう話があった筈だ。実際普通にやろうとすりゃ出来る訳だから、逆も出来ないと困るし。ただ今すぐには、あー……文献漁らないと判んないや』
急ぎなの、と眠たげな声で御崎が問うたが、安堵で僕は殆ど放心――暫し沈黙。
『……ごるぁ!』
「わ!」
『俺の貴重な睡眠時間を何だと思ってるんだお前は!』
「え、と……夜型だよね御崎」
『実技の所為で昼型だよ今は。棺桶背負ってゾンビ退治中だ』
「……御崎の武器も」
『ネクロマンサーがゾンビで戦わなくてどうする』
「共食い?」
『食わねぇよボケ。急ぎじゃないんだな? 探しておくから、見つけたら連絡する』
じゃあな、とぶっきらぼうな台詞と同時に通信が途切れた。
僕はじっと通信機を見詰める。御崎が造り出し、先輩が無理矢理だが持たせ、そして今はドォルの錬金術で不思議な石が両眼に嵌めこまれた、一見変わったデッサン人形。御崎のメカニカルな知識、先輩の異次元へすら易々と干渉する能力、ドォルの初見のものですら粘土のように軽く扱うテクニック。
この携帯端末ばかりではない。
四次元展開する鞄やここで必要な設計図を御崎から、身を守る柔らかな鎧を先輩から。閉じ篭りがちな僕の気持ちを立ち上がらせる力をドォルから。
実際に顔を付き合わせていると別に仲が良い訳ではないのだ。少なくとも傍から見れば。
けれど、皆、今の僕に欠かせない存在。
――そうか。
此処に来た頃に感じた違和感。『仲間』という単語。
漸く意味を掴めた、気がした。
ならば残る問題はあと一つ。
――僕自身だ。
ドォルは既に勘付いているようだ。僕の頭の中が通常より格段に不安定な状態にある事。記憶が暴走し、考えが纏まらず、今の『形』を忘れる時間が訪れる事。脳の中だけで済んでいるうちは良いのだが。
新しい者と会うとそれだけ……危険が増えていく。
浅い記憶が広がり、自我が拡散してゆく。
『僕』の境界が更にぼやける。
困ったものだ。
夜明けの眩しい光が広がり始めた。昇る太陽は生の象徴、だから僕は少しコレが苦手だ。吸血鬼のように実際に影響を受ける訳ではないが、全身の力が抜ける気がする。
僕は陽の中らない木陰に隠れるように蹲り、毛布を被って明るすぎる光から逃れた。
***
「それじゃあ竜胆は罰ゲームで」
ぼんやりしすぎてギルドの集会に大遅刻した僕に、クニーがにやつきながら言った。既にメンバーの大半は立ち去った後で、後はお絵かき大好きなお子様二人と変態一匹が残るのみだ。
「生クリームの刑ね。ホワイトディに」
「ちょ……な、何で!」
そりゃちょっとヤバいんじゃねぇの、とドォルが呟いているのが聞こえたが、そう思うならもう少し能動的に止めに入ってくれれば良いんじゃないのか。ドォル。